楽なものにはなんとやら(後編) - Deepblue Elysion
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2012/07/21(土) 楽なものにはなんとやら(後編)

Sakak Rydell「言うは易し、にも程があるというものだ」


「おいおい、マジかよ?」
報告後に話を聞いた俺の第一声はそれだった。

「ガレンテのジャンプゲートへ飛び、破壊するのだ。」
「ゲートはどんどん強化されている途中で、破壊するのも一苦労、放っておけばもっと壊しにくくなる。」

そりゃわかるさ。

「敵戦力はカルダリ海軍と別のエリアで大きな戦闘に取られているはずなので、今しかない。」

それもわかるさ。

「ジャンプゲートがダウンすれば、相手は増援を絶たれる上に退路も失う事になるわけだ。」

それだってわかるさ。
それが出来れば大勝利だ。
問題は、それを俺一人がやる事だろうよ。

「サカック君、君には期待しているわけだよ。」
それは完遂する能力があるであろう期待ではない。単にそれでも断れないんタイプだろうという期待だ。
それも、わかってるさ。

実際、先刻俺が協力を求めに行くぐらいだからここには戦力がない、海軍は大規模戦闘という名の陽動でいっぱいいっぱい、俺が行かなければ増援も到着するだろう。そうなってから俺が向かっても増援と鉢合わせてゲートの破壊もままならない。そうなれば泥沼化は必至だ。
一秒でも早く到達できれば可能性があるというのは俺にもわかっている。
わかってしまうということは損な事だ。

しまった、目が合った。
そうだ、社長は決断する生き物だったな。
「…報酬を上積みして待っていろ。」
ウダウダ言っている間にすでにデッキに足を向けていた俺は、すぐさまステーションを後にした。

どうせ行くんだ、早いほうがいい。



嫌な事は早く終わらせたい。
だが、嫌な事はずっと手をつけたくない。
だが俺は、本当に手がつけられなくなるのは嫌いだ。
なんとでもなるものを、手をつけずに先延ばしするのが好きな怠け者なだけだ。
だから今は、これを片付けるとしよう。

自分に言い聞かせるようにつまらない屁理屈を並べているうちに、目的の宙域に到着した。
もう見たくなかったんだがな。

だが、以前と露骨に違う事が二つある。
一つはゲートがはっきりと強化されている事だ。
見た目は全く変わらないがな。
なら何故判るって?それが二つめだ。
二つめは…

まっかっか.jpg
前回転送できなかったはずの巡洋艦クラスを含めた敵艦隊がお出迎えしてくれているからさ。
「シグナルオールレッド、当然ですね。軍の巡洋艦が3隻、その他小型艦は数えるのを辞めましょう。」

さて…この状況、何から片付ければいい?
「とりあえず、突っ切って4つは落とす。それまでの防御は預ける。後は一直線にゲートに向かうぞ。」
「突っ切った後はターゲティングコントロールを預けてください。適当にやります。」
よし決定。

一瞬の作戦会議が終了し、猛スピードで正面突破を試みる。
まさかの突撃に面食らう小型艦を次々ロックし、ぶっ放す。
めったに使わないミサイル艦だったが、これはこれで役に立つものだ。
巡洋艦では捉えきれず、小型艦は数の多さから相打ちしようという奴などいない。落ち着いて狙えるスピードでもない。いくら数的優位といっても、まだ相手のフォーメーションが決まってもいないとりあえず程度の迎撃で撃沈させる事など出来ない。
敵だらけの中、俺たちは思ったほどの損害を受けていない。それがまた相手の混乱を誘う。
今の所いいスパイラルだ。

予定より2隻多い6隻のフリゲートを沈め、まっすぐにゲートに向かう。
相手は急反転を余儀なくされる。さっきの突破が上手くいく程度の相手が一糸乱れぬ反転追撃を行えるわけもなく、少しずつ速度差でバラけながらついて来る。
相手に背を向けつつ、お嬢様が選んでくれた適切な射程の武器をターゲットに打ち込む追いかけっこが始まった。
これはたまらない.jpg

小型艦は傭兵なのだろうか、いまいち統率が取れていない連中だ。あれだけいたフリゲートは壊滅。ゲートまではもう少し距離がある。
巡洋艦は一隻がどさくさ紛れに大破、残りはまだ射程圏外だ。こっちの方が足があるぶん追いつかれる事も無いが、ゲートを攻撃している間に到達されるとやっかいだ。ゲートの耐久次第か。

「あらあら…来ます。」
「何が。」
「見ての通りです。」

増援か…
ゲート側に敵が現れる。小型艦ばかりではあるが、全部を無視してゲートを破壊も無理だろう。
交戦していれば巡洋艦も到着する。

ああ、スマートじゃない。全然スマートじゃない。
でもこれしかない。

「全滅させるか。」

おかしい、最大級に楽な仕事だったはずなのにな…


到達までの時間が少しあった分、シールドの回復も間に合った為、小型艦との戦闘そのものに苦労する事は無かった。
思ったより早く片付けたせいで巡洋艦はまだ遠くだ。

「わかるか?俺は楽がしたい。」
「では予定変更で、やられたらその時に考えましょう。」

察しがいいのは本当に助かる。
俺は、巡洋艦を待たずにゲートだけを破壊する事にした。
もうやる事は一つ、ひたすら弾を撃つだけだ。
一応、ゲートを間に挟むように展開しておいたので、幾分時間は稼げるだろう。
全速力で向かってくる巡洋艦にビビりながら、延々ミサイルとアンチマター弾を撃ち込み続ける。
既に巡洋艦は射程距離に入りつつあったようで、せっかく挟んだゲートの隙間を縫って撃ってきやがった。なかなかの度胸と精度だ。
軍人魂と、俺の怠け者魂がぶつかり合う。

どうやら、今回は怠け者の勝ちのようだ。
ゲートの爆発に紛れて即座にワープドライブを起動。始めから目標地点に頭を向けておいた分、向こうから見たらゲートと一緒にふっとんだように見えるかもしれないな。


「マジで疲れた。」

げんなりした俺を迎えてくれたエージェントは俺とは逆に、異様にテンションが高かった。
つまりはなんだ?

海軍と交戦中だったガレンテ艦隊が敗走、その際指揮型巡洋戦艦を捕獲したらしい。
大戦果だな、だが俺には関係ない。
ところがだ、事のいきさつを海軍が知ってしまっているようなんだな。
ある種今回の戦果は俺のおかげといってもいい、らしい。
だが、別に俺個人の事を知っているわけではないので、つまりはあれだ、ここのステーションの管理連中とこのエージェントの手柄って事だ。
ここにとっては今後、海軍との交渉ごとにはオイシイ材料になったな。
かといって、それすらもニュースで流れることは無いだろう。こういう事を公表すれば全面戦争にだってなりかねない。

誰の手柄でも、真相は闇の中。そして俺の懐が暖まるわけでもない。
そもそも、楽をしたかった成れの果てなので、手柄が欲しいわけでもない。
しかし、エージェントは俺の事を闇に隠れた英雄扱いでヨイショしてくれている、現金なものだ。

…まあ、乗っかっておくのも悪くない。
その日はしこたまいいものを食わせて貰い、翌日ステーションを後にした。


しかしとことん楽をしたかったのに、とことんしんどい仕事をしてしまった。
後日我に返った俺は、終わったはずの英雄の仕事の面倒さに改めてぶつくさいいながら、別のステーションで海軍がらみの仕事を請けた。
俺を見て何かに気づいたようなそぶりを見せた後、そのエージェントのお姉さんの対応が妙に優しかった。

…まあ、大仕事も悪くないかもな。
単純なことは、幸せな事だ。

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